自宅からオフィスに向かう道すがら、フッとある歌が舞い降りてきた。
「リンゴの花ほころび♪ 川面に霞たち〜♪」
なんと、最後まで歌えたのが不思議。何十年ぶりだろう……なぜ突然、心の中にわき上がったのだろう。
トッポジ―ジョが現れたこともあった。
「どこまでも行こう♪ 道は険しくと〜も〜♪」
こんなこともあった。
東横線のエスカレーターで下降しているときに突然、「探しものは何ですか〜♪」。
オフィスに着いてPCを立ち上げ、当時の日課だった蔵書整理ブログをチェックすると、
その日のタイトルはなんと! 「探しものは何ですか」。
歌は、その折々の心情に寄り添って出てきてくれると思っていたけれど、
「探しもの♪」 は全く関係なし。あの時ほどびっくりしたことはない。
歌以外にも……
あ、あの切手おじさんて、蔵書整理のMさんにそっくりではないか。
と、また突然何かが舞い降りる。
のっそりしたあの物腰、凝り性、寡黙、プライド高く志を秘めた様子……
切手おじさんとは、大昔、京橋のとある財団法人でアルバイトをしていたころ、
となりの席に座っていたおじさんだ。(まだ30代だったかもしれない)
この人は、郵便物が届くたび愛おしいものを扱うように、はさみで切手を切り取っていた。
「こうしてね、切手は大事な寄付になりますからね」と言いながら。
それ以外の会話を交わした記憶がない。以来、わたしはずっと切手を切り取り続けているのだが。
数十年の年月を越えて現れる言葉や映像の断片は一体どこにいたのだろう。
そしてそのメッセージは?
身体にふっと入り込み意識化される、そのプロセスの不思議。
昔『ディア・ハンター』という映画で、森の大鹿がこちらを見る、一瞬のシーンがあった。
草森さんが「無意識が挿入されると、深くなる」と言ったことを思い出す。