その先は永代橋 草森紳一をめぐるあれこれ

「もの書き」草森紳一の蔵書約3万冊は、2009年11月故郷の帯広大谷短期大学に寄贈されました。 このブログでは、以後の草森紳一関連ニュースをお伝えしていきます。写真 草森紳一

「もの書き」草森紳一の蔵書約3万冊は、2009年11月故郷の帯広大谷短期大学に寄贈されました。このブログでは、以後の草森紳一関連ニュースをお伝えしていきます。 写真 草森紳一

幻の国家宣伝雑誌『フロント』

 

去年の夏、草森紳一写真展「本は崩れず」でお世話になった
森岡書店の森岡さんから久しぶりにお電話。
ぼ〜よ〜として、ていねいな彼の声を聞くとなぜかホッとしますね。

『フロント』について草森さんが書いた原稿を読みたいが、どこに掲載されているかご存知ですかというお尋ね。
さあ〜、雑誌だったらちょっとわからないかもしれませんねえとお応えすると、単行本に入っているのは確かとのご返事。
去年の展覧会に展示した著作のなかに入っていたそうだ。
それならと、60冊近い著作の並んだ棚のところに行く。
そのとき、サマンサのように鼻がぴくぴくと動いたような!?
1冊を手にとって「ねえ、『見立て狂い』じゃあな〜い?」
「あ、そうかも。そうです。そうだと思います!」
「でも、ちょっと待って。目次を見てみるから」

で、ありましたねえ。目次の最後に、
「生き神様の住む国のグラフィズム 天皇と対外宣伝雑誌『フロント』」 のタイトルが!

『FRONT』は、戦時中に東方社から出されていた海外向け国家宣伝雑誌。
A3の大判で当時15ヶ国語で出されたという。(上の写真は、その創刊号と2号目で1942年刊です)
草森さんによれば、よこ文字を使い西洋のレイアウト術を取り入れた『FRONT』は、日本兵の不格好さを見せない撮影の工夫や、
戦車や爆撃機を大量に見せるモンタージュの手法など、写真の力とアートディレクションの腕前で目を見張らせるが、
それは空虚のグラフィズムだと手厳しい。
国内では「天皇」という万能の宣伝的存在をもっていたが、西洋的方法論による『FRONT』はかっこよすぎるがゆえに
拒絶反応を起こさせ成功しなかったのではないか。
そして今やっと「たての日本文字」をたくみに使いこなし始めた日本のデザインに自信を見るのだが、
あるニュースをきっかけに「笑いながら、私は寒気がしたのである」と草森さんは文末に書くのだ。

初出は『写真装置』第五号、所収の『見立て狂い』は1982年、フィルムアート社刊です。

『FRONT』ほかの対外宣伝雑誌を森岡書店では集めていらっしゃるとか。拝見するにはお問合せが必要と思います。
同時代の文化宣伝雑誌『NIPPON』もあれば見たいですねえ。

崩れた本の山の中から 白玉楼中の人