『狼藉集』、『円の冒険』、『絶対の宣伝』、『見立て狂い』など、タイトルによる草森人物論だってできるのではと思うほど。
やはり四方田犬彦氏が「新潮」2008年8月号の追悼文「スカラベのごとく孤独」(と、思わないけれど)で、草森紳一の題名の面白さについてふれておられた。
『江戸のデザイン』も、初めて使ったのは草森さん。連載開始は1968年だから、斬新なネーミングも評判をよんで、次々と同名のムック本が出た。
だけれど、草森さんといえども、いつも題名がすらすら出てくるものではない。この本には「いいのが出てこなくてね。本当に困った…」ととても悩まれていたのをよく憶えている。
本の制作そのものがそもそも難産だった。あまりに大変そうで、出ないかもしれないという言葉を聞いて、劇場からPARCO出版に異動したばかりだった私は、「(出せるかどうか)出版に話してみましょうか?」と聞いた覚えがある。
担当者を信頼していた草森さんの返事はもちろんNOで、1979年4月に予定通り大和書房から、横尾忠則氏の装丁・構成による箱入りの立派な本が出たのだった。
本書は、「芸術生活」(1975年1月号〜76年12月号)の2年にわたる連載で、初出のタイトルは「俺のアンリ・ルッソー」。(当時のことは、本の雑誌社『記憶のちぎれ雲』の、古山高麗雄の章に生き生きと書かれています)
『素朴の大砲』のあとがきに、
「部分は、ルッソーにあって、つねに全体である。全体であるばかりでなく、あらゆる部分は中心である。〜〜」
とあって、単行本では念願だった“部分をクローズアップして見せること”が実現されている。(このことが予算とスケジュールに大きなリスクとなったようです)
下は、草森さんが連載(毎回6頁分)を合本していたもの。15回「獣の波 海」の見開きで、“画志 図志”やトリミングラインの書き込みが見られます。結局、単行本の「海」のページでは、部分写真12点(モノクロ)が使用されました。
その下は単行本の書き出しページです。本書の目次などは、草森紳一HP「白玉楼中の人」で見ることができます。
(見開きの画像はクリックすると大きくなります。)
「草森紳一書き出し劇場」で、草森紳一の本を紹介していますが、見どころ読みどころをまとめる力量は残念ながら私にはありません。
ただあらためて、独特の視点で、自分のやりたいことだけをやった人だったんだなあと思っています。
マンガ論、ルソー論、散歩論、書論などなど、草森さんの本が出た後で、もっと安く!読みやすく!同じようなテーマの本が出ると、なんとなく悔しかったものです。
このブログは、ささやかながら、マイナーな物書き草森紳一の、「草森紳一応援団」なのです。