子どものころにどんな本を読んでいたか。
思い出すのは、講談社の『少年少女世界文学全集』だ。箱入りで、中の表紙は品の良いワインレッド。今思い出してもワクワクする。そして口絵のカラーの美しかったこと!
だけど私の場合、本を読むより、外で遊ぶ方が好きだったようだ。弟たちの相手をしなければならなかったからだと思う。ギリシア神話の農業の女神デーメーテールやプロメテウスを主人公にした劇ごっこをしたり、空き地に取り残されたコンクリートの建物の地下室を探検したり…
こんなことをフト思い出したのは、『公評』2011年6月号掲載の「戦後日本の児童文学における中国古典の翻訳」(P74-81)を読んだからだ。筆者は、草森さんのずっと後輩、慶應大学、中国文学科出身の平井徹氏。先日、お送りいただいた。
西遊記や水滸伝、紅楼夢など1960年代以後に児童対象に翻訳出版された中国の古典について、出典や構成、訳文、訳者、挿絵にいたるまで分かりやすく丁寧に論評されていて、全部の本を読みたくなったほどだ。
たとえば1974年に学燈社から刊行の『小学生の中国文学全集』全12巻は、
1「中国の神話・伝説」 2「中国の民話」 3「論語ものがたり」 4「史記ものがたり」 5「中国のちえくらべ」 6「西遊記ものがたり」 7「三国志ものがたり」 8「水滸伝ものがたり」 9「中国の夢ものがたり」 10「中国のふしぎな話」 11「漢字ものがたり」 12「中国の笑いばなし」と楽しくバラエティに富んでいるが、それもそのはず、編集委員は児童文学者の石森延男氏と中国文学者の藤堂明保氏だ。
草森紳一の最初の本は子ども向けに翻訳構成された「史記」。『中国文学名作全集』全10巻(盛光社刊・1967)の第1巻だ。29歳のときの、奥野信太郎教授の推薦による仕事で、出版社の意向で何度も書き直しをした経緯があったためか、平井氏によれば、草森らしさが今ひとつ感じられず、のちの『食客風雲録 中国編』(青土社・1997)に示された「史記」の読み方こそ、まさに草森流で面目躍如、卓越したものがあると思われたという。
講談社の世界文学全集は全50巻だが、中国古典は第42、43巻にやっと出てくる。第1巻はもちろんギリシア神話。中国文学全集を親が買ってくれていたなら、西遊記の劇をやっていたかしら…