その先は永代橋 草森紳一をめぐるあれこれ

「もの書き」草森紳一の蔵書約3万冊は、2009年11月故郷の帯広大谷短期大学に寄贈されました。 このブログでは、以後の草森紳一関連ニュースをお伝えしていきます。写真 草森紳一

「もの書き」草森紳一の蔵書約3万冊は、2009年11月故郷の帯広大谷短期大学に寄贈されました。このブログでは、以後の草森紳一関連ニュースをお伝えしていきます。 写真 草森紳一

蔵書整理の季節を過ぎて (NO.1)

 もう何年も昔。夜の地下鉄の中でのお話。シルバー席に座っていた私の前に、地下足袋の土木作業員風のおじさんが座った。60代くらいか、日に焼けた顔に深いしわ。乗客も少なく、まるで私とお見合いのよう。困ったな、とフト思ったとき、コップ酒を持ちなおすと私のほうにグッと身を乗り出して、言ったのだ。
 「人間は、思い出すのが、ええなあ」。
 それから、阿寒湖のそばの、赤い湯が湧き出る沼に浸かったこと。「蛇だって気持ち良さそうに泳いでいてなあ」と続くのだけれど、気がつけば表参道で、打ち合わせのあった私は、サヨナラと手を振って別れた。
 もちろん、「人間は、忘れるのが、ええなあ」とも言える。むしろ私のこの10年は、消去したいことのほうが多いのだけれど、このおじさんの夢見るような語り口はいまも忘れられない。

 アッという間に、「蔵書整理プロジェクト第二部」目録完了から2年。一昨年の4月25日が打ち上げで、去年の4月28日には一周年をやった。今年も同窓会をしましょうと言いながら、まだ実現していない。皆それぞれの生活に戻って行って、記憶も日々薄れていくのだけれど、私たち親子にとっては作業を通じて多くの人との出会いがあり、支えをいただき、忘れたいより、思い出したいことのほうが多い年月になった。本当に生きるということは不思議でおもしろい。これからも、みなさんどうぞよろしく!


写真は、倉庫でのジャンル分け(第一部)と目録入力(第二部)の様子。
     

崩れた本の山の中から 白玉楼中の人