その先は永代橋 草森紳一をめぐるあれこれ

「もの書き」草森紳一の蔵書約3万冊は、2009年11月故郷の帯広大谷短期大学に寄贈されました。 このブログでは、以後の草森紳一関連ニュースをお伝えしていきます。写真 草森紳一

「もの書き」草森紳一の蔵書約3万冊は、2009年11月故郷の帯広大谷短期大学に寄贈されました。このブログでは、以後の草森紳一関連ニュースをお伝えしていきます。 写真 草森紳一

椎根和さんの『フクシマの王子さま』を 雪の日に。

   草森さんが晩年親しくしていた椎根和さんの最新刊『フクシマの王子さま』(芸術新聞社)を読みました。昨年の暮れに出版されていたのですが、手に入れるのが遅くなってしまいました。

 おとぎ話を語るようなスタイルをとった、原発についての恐いお話です。
 王子さまとは、東日本大震災の前に福島で生まれた赤ちゃんのこと。異変を感じさせるしるしはどこにも見当たらなかったのに、あの日を境に王子さまの星は一変してしまうのです。すくすくと育っていた王子さまの日常も。

「なぜ?」という思いから、お母さんが語り始めます。幼いころによく聞かされた昔話、春には白い桃の花が、梨が、リンゴの花が咲く美しい故郷のこと、なぜ東京電力がやってきたのか、なぜ強い放射能が降ることになったのか、王子さまのお母さんが一生懸命に考える言葉は胸を打ちます。ぜひ読んで下さい。

 昨年の3月18日、草森紳一さんの一日早い命日に門前仲町の「笑福」でささやかな宴を持ちました。まだ東京でも頻繁に揺れていたころで、笑福の女将さんがキャンセルばかりと嘆いていましたから、命知らずが集まったという感じでした。椎根さんもその一人で、郡山のご実家では、地震で仏壇が飛んだと言われていました。その時には、中高時代の武勇伝をにぎやかに話して下さったのですが、その後の福島との行ったり来たりで、書かずにはいられない気持ちになられたのでしょう。原発に関する背景や情報も取材されたうえでの、12月28日の出版です。
 怒りを抑えた、椎根さんらしい飛躍とユーモア、愛と祈りがあふれています。東北の自然界のおとぎ話がバイブルになったら、本当にすばらしいですね。
 あれから一年。もう3月がめぐってきます。

崩れた本の山の中から 白玉楼中の人