草森さんが晩年親しくしていた椎根和さんの最新刊『フクシマの王子さま』(芸術新聞社)を読みました。昨年の暮れに出版されていたのですが、手に入れるのが遅くなってしまいました。
おとぎ話を語るようなスタイルをとった、原発についての恐いお話です。
王子さまとは、東日本大震災の前に福島で生まれた赤ちゃんのこと。異変を感じさせるしるしはどこにも見当たらなかったのに、あの日を境に王子さまの星は一変してしまうのです。すくすくと育っていた王子さまの日常も。
「なぜ?」という思いから、お母さんが語り始めます。幼いころによく聞かされた昔話、春には白い桃の花が、梨が、リンゴの花が咲く美しい故郷のこと、なぜ東京電力がやってきたのか、なぜ強い放射能が降ることになったのか、王子さまのお母さんが一生懸命に考える言葉は胸を打ちます。ぜひ読んで下さい。
昨年の3月18日、草森紳一さんの一日早い命日に門前仲町の「笑福」でささやかな宴を持ちました。まだ東京でも頻繁に揺れていたころで、笑福の女将さんがキャンセルばかりと嘆いていましたから、命知らずが集まったという感じでした。椎根さんもその一人で、郡山のご実家では、地震で仏壇が飛んだと言われていました。その時には、中高時代の武勇伝をにぎやかに話して下さったのですが、その後の福島との行ったり来たりで、書かずにはいられない気持ちになられたのでしょう。原発に関する背景や情報も取材されたうえでの、12月28日の出版です。
怒りを抑えた、椎根さんらしい飛躍とユーモア、愛と祈りがあふれています。東北の自然界のおとぎ話がバイブルになったら、本当にすばらしいですね。
あれから一年。もう3月がめぐってきます。